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Channel: とぎれとぎれの物語
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女神の村

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女神の村




フランツ・ヴィンターハルター作「春」


 車を降りると、私は滝の裏に回りました。裏から見る滝は、轟音を立てて大きな水の帯が垂れ下がっているようなゾクッとするような眺めでした。隧道の中に私は一人で入って行きました。中は意外と明るく、遠くに出口がぽっかり浮かんでいました。・・・出口近くに行くと、誰かが私を呼んでいるような気持ちになりました。名前を呼んだのではなく、お帰りなさい、お疲れ様、というような声に聞こえました。やっと出口に出ました。村里の目がくらむような初夏の日差しが私を迎えてくれました。見たところどこにでもあるような田舎の田園風景でした。声はどこから・・・。私は声のする方向へ歩き始めました。暫くすると、藁葺きの小さな家が見えてきました。周りの家は瓦葺の立派な家ばかり。ここだ、確かにここから聞こえてくる。誰だ。誰なんだ。私は恐る恐る家の中に入って、小声でこんにちはといいました。すると、奥のほうからお帰りなさいという声。私はその声の主が考えていたイメージとは違って、若々しい女性の声だったので、一瞬電気に打たれたように体全体が硬直しました。現れた女性はどこかで見たことのある人でした。


 陶山さん、お帰りなさい。

 あっ !! 貴女は、れ、れんじょう、さ、さゆりさん !!

ああ、連城小百合さんですか。あのお方と私は何の関係もありません。他人の空似だと思います。小百合さんはまだ出雲でご活躍ですから転生はしていません。私は全く別の人間です。

 そ、そうですか、すみませんでした。で、ここは私の家ですか。

 そうですよ。

 えっ、じゃ、私と貴女の関係は。

 はは、別に関係はありません。

 でも、ここから、お帰りという声が確かに・・・。

 私が呼んだのです。

 ど、どうしてですか。

 どうしてと仰っても分かりやすく説明する自信はありません。強いて申し上げますと、貴方のお母さんがお生まれになった家です。双子の姉妹の一人が出雲に嫁いで、あなたをお産みになった。もう一人は占いの先生。・・・そのことはご存知だと思います。

 それで、貴女はどうしてここに・・・。

 また、どうして・・・、ですか。・・・そうですね。空き家になっていたので、私がお借りしただけです。

 じゃ、私はここで貴女と一緒にこれから生活することに・・・。

 いや、転生された貴方は今までもここで暮らしていらしたのです。

 貴女と一緒にですか。

 いや、そう言うと誤解を招きます。私はこの村の司祭です。村人たちは女王と言いますが、私はそういう言い方が好きではありません。ここの家の裏庭には代々受け継がれているヤサカトメの命の祠があります。・・・だから、私は祠の神の鎮護、そして、村人の幸せのためにここに通っています。

 じゃ、ここで一緒に暮らしてください。

 それは求婚の言葉ですか。

 そうです。

 御免なさい。司祭は結婚できません。いずれ、素晴らしいお方が現れると思います。私はそれを望んでいます。

 そうですか。・・・私はここでも宿善、・・・と言いますか、皆さんのために努力します。そして立派な・・・。

 ・・・村にしたいのですね。そのお気持ちは尊いと思います。立派です。しかし、この村では、何々のために努力する、精進する、という努力、そのための競争はしない掟になっています。自由にのびのびと暮らしていく、いや、決していい加減ということではなく、生きることを楽しむことがベストの生き方だと私は諭しています。ですから、この村には不満とか、対立とか、そういう醜いものは一切ありません。

 私には生きる目標が必要です。何のために生きるかということです。

 陶山さん、どうか、ご自分のために生きてください。お願いします。利自即利他です。

 今日はこれで失礼します。

 どこにお住まいですか。

 いずれお分かりになると思います。

 もう帰るんですか。

 そうです。・・・貴方は食事を作ることがお出来になるはずです。

 多少は・・・。

 食材は準備してあります。それでは失礼いたします。また、明日参ります。

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女王の棲家

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女王の棲家




 ROMNEY, George(1734-1802)作 「 Lady Hamilton」」

 この絵のモデルの名はエマ・ハート。後に駐ナポリ英国大使ウィリアム・ハミルトンの妻となって「ハミルトン夫人(Lady Hamilton)」と呼ばれたが、ナポレオンのフランス艦隊を2度も撃破したイギリス海軍の英雄ネルソン提督の愛人としてヨーロッパにその名を馳せた絶世の美女である。貧困家庭の出身であるが、天与の美貌を利用して男から男へと渡り歩く生活を送るようになった。ロムニーはこの17歳の娘の傑出した美貌に驚嘆し、彼女をモデルにたくさんの肖像画を描く。この絵はそのうちの1枚で、男を誘惑して弄ぶ魔性の女神キルケをエマに見立てて描いた寓意的肖像画である。



 彼女が女王 ? 私は不思議でなりませんでした。類まれな美貌の持ち主だが、多数の人の前に立つような人物には考えられませんでした。どこか親しみを感じる雰囲気で、私のことをよく知っている様子なので、自然に近しい「家族」を感じてしまいました。この女性なら本当に一緒に住みたいと・・・。そんな言葉がつい出てしまったのです。だから、どこに住んでいるのか知りたくなりました。この村のどこかに一人でつつましく暮らしているに違いない。いや、案外、数名の女性神官とともに女の城に立て篭もっているのかもしれない。・・・そんな思いが膨らんできました。狭い村のこと、すぐに家を見つけられるに違いない。私はそう思い立って、外に出ました。そして、通りがかりの女性に声をかけました。


 あのー、そこの家のものですが、司祭の女王様は普段どこにお住まいですか。

 えっ、・・・ああっ、貴方は最近どこかへ長らく出かけてなさったんで、誰かと思いました。ああ、そこのお宮のある家の・・・。

 そうなんです。思い出していただいてどうも・・・。で、どこにお住まいですか。

 それを知ってどうなさるんですか。

 いえ、ちよっと伝えたいことがあるんです。

 またまた、変な気持ちを起こして・・・。

 いやいや、そんなことは・・・。

 ははっ、冗談ですよ。・・・そうだねえ。・・・居場所ねえ、私は、いや、この村の誰も知っていないと思うけど・・・。

 えっ、ど、どうしてですか。

 いやね、朝になるとどこからとなくすっと出てくるんで・・・。まるで、この世のものではないような感じがするけど・・・。

 そうですか。じゃ、どなたも知らないという・・・。

 そうだね。時が経つとそれが当たり前のようになってきて・・・。

 当たり前・・・。

 そうだよ。そうだ、お前さん、今日もお勤めに来るから、会えるじゃない。

 まっ、そうですが。

 そのときが待てないとか・・・、はははっ。

 からかうのはよしてください。


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天上の最終戦争 1

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「民衆を導く自由の女神」ドラクロア作(1830年) ルーヴル美術館

 この絵はあまりにも有名すぎて、説明のしようがない。ただ原題は「民衆を導く自由」だそうである。どうして日本では「女神」が付いたのか。当時自由という概念が定着していなかったからであろうか。私はこういう絵は分かりすぎて掲載するのに気恥ずかしさを感じる。色彩の面での配慮、動きのある構図。とまれ、ドラクロア作品を代表する傑作である。


司祭が帰ってきましたので、私は急に落ち着かなくなりました。司祭は庭の奥の祠に入ると、儀式のためにしばらく出てきませんでした。私は、朝食の片付けをすばやく終えて、お茶の準備をしておきました。・・・しかし、待てよ、今日の司祭の顔は何か思いつめているような感じだったなあ。私はそう思って、少し不安になっていました。私は、座卓に揃えたお茶の道具をじっと見つめていました。すると、司祭が居間にもどってきました。


 あっ、ありがとうございます。・・・司祭は私の前に座りました。私は、お茶を注ぎました。

 私は、貴女をどう呼んだらいいでしょうか。

 私の名前ですか。・・・ないです。今までどおりでいいですよ。

 今までどおり ?

あら、忘れたんですか。

 ・・・。

 母さん。母さんでいいですよ。

 母さんと呼んでたんですか。

 そうですよ。貴方が以前急にそう仰った・・・。

 そうでしたか。母さんですか。

 照れくさいなら、・・・茅乃でもいいですよ。

 茅乃さんですか。じゃ、これからそう呼ばせていただきます。

 お茶、おいしかったです。じゃ、失礼します。

 茅乃さん、もう帰るんですか。

 ええ、お勤めが終わりましたので・・・。

 茅乃さん。

 何でしょうか。

 何か、心配事でも・・・。

 心配事 ?

何だか思いつめているような・・・。

 貴方には関係のないことです。

 出来ることなら、何でもします。

 貴方にはできません。いや、頼めません。

 貴女が、・・・もうここに来なくなってしまうような・・・。

 ははっ、そういうことはありません。

 ごまかさないでください !!

・・・そうですか。そう仰るなら・・・。これから戦いが始まります。

 ど、どこで・・・、どんな・・・。

 貴方にだけお話ししますが、神の世界です。・・・私の住処は天上です。そこに、異形の神たちがたくさん出てきました。続いて起きる地上の暗い事件はその神たちの仕業だと思います。

 私も戦わせてください。

 地上のお方は天上では戦えません。

 連れて行ってください。

 お気持ちはありがたいです。しかし、天上に昇るには一旦死なねばなりません。

 私は、私は、貴女といっしょに戦いたい。

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天上の最終戦争 2

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天上の最終戦争 2



藤田嗣治 作 「優美神」 (1946~48年)

 藤田嗣治、60~62歳の時の作品である。三美神を描いたものと思われる。70代にもっと若々しい溌剌とした色鮮やかな三美神を描いている。底知れぬ耽美心を感じる。


 私は、戦いの準備を始めました。死んでもいい、天上で戦えたら私は何の悔いも感じない。ヤサカトメの神の化身の茅乃と生死をともにすることが至上のことと思えてきたのです。イザナミ、八雷神、黄泉醜女(よもつしこめ)らに追われたイザナギは、髪飾りから生まれた葡萄、櫛から生まれた筍、黄泉の境に生えていた桃の木の実を投げて難を振り切った。それにご神木の椋の木の実。霊力を持った植物の実、・・・これを集めておこう。そんなことを思っていました。

 死ぬ !!・・・止めてください。

 死んで、天上に昇り、貴女と生死をともにしたい。

 止めてください。・・・天上の神は究極光の束です。夥しい光の束が絡み合って戦うのです。だから、そんな武器など要りません。

 光 ?

そうです。貴方が光の束になることは、極めて難しい。

 ど、どうして・・・。

 越えなければいけない大きな障壁がいくつもあります。

 修行が足りない・・・。

 霊性という表現が当たっています。霊性も光の束です。

 霊性・・・。

 そうです。

 ・・・。

ひたすら祈ってください。それしか方法はありません。

 ひたすら祈れば何時しか、近づいてくる・・・。

 そうです。ひたすら。・・・ただ、天上は時を争う事態に至っています。間に合いません。

 じゃ、もう私は貴女と一緒に戦えない・・・。

 そういうことになります。・・・ただ、一つだけ方法があります。

 天上に住処を頂いたなら、貴方の場合、もう二度と地上に転生することは叶いません。・・・それでもいいですか。

 二度と人間には返れない・・・ ?

 そうです。特別な儀式を執り行いますが、それは、人間を捨てる儀式でもあります。

 人間を捨てる・・・?

そうです。それでもよければ・・・。

 ・・・。

 それから天上に昇れば、私の光の束の中に取り込まれます。貴方の分だけ私のエネルギーは増大しますから、私の戦力は増大します。光と光の戦いは一瞬で勝敗が決まります。霊性の強い方が弱いもののすべての光を飲み込んでしまいます。邪神の数は日増しに増大しています。私は早く天上に昇らねばなりません。

 ですから、私を戦力に使ってください !!

分かりました。それでは、お宮の方へ行きましょう。・・・いいですか、覚悟は出来ていますか。

 勿論です。

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天上の最終戦争 3

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天上の最終戦争 3




フェルナン・クノップフ作「ヴェネツィアの思い出」(1901年頃 姫路市立美術館蔵)


西洋美術史のなかで異彩を放つベルギーの幻想美術は、19世紀の産業化する社会背景から生まれた。画家たちの心象風景が描かれた作品は見るものの想像力を駆り立てる。彼のの作品はグスタフ・クリムトに影響を与えたといわれている。クノップフはどちらかといえば控えめで打ち解けない人柄であったが、彼の作品は存命期よりカルト的な人気を集めていた。レオポルド勲章を受賞している。


貴方は怖くないですか。怖いです、・・・しかし、茅乃さんについていきます。男の霊が私の中に入るということは、私としても経験がないので、極度に緊張しています、ただ、これからの儀式は男女を超えた高度なものですから、始まればお互い苦痛とか不安は感じません。貴女一人で儀式をなさる ? いや、巫女が二人手伝います、では・・・。そんな会話を社殿の中で交わしていると、二人の巫女が装束を正し、鈴を持って現れました。そして、鈴を鳴らしながら円を描いて舞い始めました。茅乃さんは神前に進み出て、拍手を打ち、祝詞を唱え始めました。すると、茅乃さんの体全体に金色の光がまとわりつきました。しばらくすると、眩しくて正視できないようになりました。それにつれ、私の体もふわっと浮いたような感覚が生じました。目を凝らしてじっと私を見てください。眩しくて・・・。いや、すぐに慣れます、いいですか、私の素の体をお見せします。いいですか、その姿を見た瞬間に、貴方はこの世の存在ではなくなります、・・・私の光の中の一部となります。えっ、・・・、そう言った途端、茅乃さんの光に包まれた体のシルエットが見えました。・・・カ、カンノン様。そう私が言うと、私の周りも光に包まれました。これで貴方は私の一部になりました。さあ、これから、天上に昇ります。・・・その言葉だけは聞こえましたが、それからは私の意識はなくなりました。

 

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花咲く電信柱 (連載第1回)

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花咲く電信柱 (連載第1回)


 電信柱を侮ってはいけません。無能ののっぽが立っている。そう言って嘲笑している人たちを上のほうから却って笑っているのです。繋がっている電線を支え、強い風の中でもカラスたちに止まり木を提供しています。立派ではありませんか。私は見上げながら私自身と重ね合わせて、じっと見ています。何ですか。電信柱と電柱とは違う、ですって。いやはや細かいですね。私は昔の木製の柱のことを言っています。えっ、昔も二つを区別していた、ですって。いやそんなことどうでもいいのです。「電柱に花が咲く」でもいいのです。さて、物語の始まりです。

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2 風の言葉 

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帰 郷

中原 中也

   柱も庭も乾いてゐる

   今日は好い天気だ

        縁の下では蜘蛛の巣が

        心細さうに揺れてゐる


   山では枯木も息を吐く

   あゝ今日は好い天気だ

        道傍の草影が

        あどけない愁みをする


   これが私の故里だ

   さやかに風も吹いてゐる

        心置きなく泣かれよと

        年増婦の低い声もする


   あゝ おまへはなにをして来たのだと……

   吹き来る風が私に云ふ



 私という電信柱に囁きかけるのは、いつもの風の言葉。そうです。「あゝ おまへはなにをして来たのだ」と言うのです。私は何もこの詩人の詩句に酔い痴れている訳ではありません。毎日風に吹かれて突っ立っていますと、心の中で自ずと湧き上がってくるのです。野良犬が足元にしょんべんをかけて立ち去るときも、風は野面を吹き渡っていきます。ああ、寂しい。誰か私の友達になってくれないだろうか。おい、おい、お前は一人だからこそ電信柱でいられるのだ。二三本かたまっている電信柱なんて見たことがないぞ。内なる声が聞こえてきました。
 私には唯一の情報源があります。それは電線から伝わってくる誰かの声です。まるで糸電話のような感じですね。ああ、今も聞こえています。隣町の誰かが死んだようです。ああ、それから、赤ん坊が生まれたという便りも昨日聞きました。・・・美しい人に会いたい。今度はそんな他愛ないことも思って、耳を澄ましていました。

 
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3 窓辺の女性

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著作者:Sigma.DP2.Kiss.X3

ある秋の日の昼過ぎ,私である電信柱は珍しい場面に出会いました。名も知らぬかわいい若い女性が私を、・・・いや、私の方を見つめていました。頭だけ窓から出して、こちらを見ているではないですか。私は電信柱ですから、素晴らしい男性でもないし、美しい風景でもありません。

 「いつものカラスが止まっているからかしら」

 私は探しましたが、その日は珍しく一羽も止まっていませんでした。私がもし電信柱でなかったら、笑顔で応えていたかも知れません。風がまた強く吹いてきました。電線がヒュー、ヒューと鳴り響きました。その女性はまだ外を見つめていました。

 「窓を閉めた方がいいよ。私は、ここで明日もあさっても立っているから」

 そう私が言うと、聞こえたのかどうか分かりませんが、その女性は急に窓を閉めました。私はそのとき母親らしい感じの女性が奥の方にいるのを見届けました。
 私はその家は毎日見ていたのですが、どんな人たちが住んでいるのか、どんな気持ちで住んでいるのか、全く分かりませんでしたし、興味もありませんでした。しかし、若い女性がいるということを知り、何だか胸がときめくのを感じました。・・・お前はどうして電信柱になったのか、ですって。そうですね、分かりました。いずれお話しする機会があると思います。 

 
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4 罪 障

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著作者:e for elizabeth

 利自即利他。自他は時に従うて無窮なり。などといわれていますが、この世の中で一番難しくて厄介なものは人と人との関係だと思います。電信柱の私がこう言うのもおかしいですが、私がこうしてここに立っている理由の一つはそういうことにあります。
 立っているだけであれば、風雪に晒されることはあっても、他に迷惑をかけることもありません。立っていることがむしろ人間世界に恩恵を、いや、こんな言葉はふさわしくありませんね、そうですね、ささやかな光をもたらすのです。人間だったとき、何か動き出すと他の人に迷惑をかけることが多かったという記憶があります。よかれかしと思ってしたことも相手の中にに不利益や不満のしこりを残したりします。言葉もそうですね。愛語は回天の力を起こすとか言われています。しかし、余計なお世話だよなんて思われたりしますね。
 私には確たる信念があります。それは、自分がいるから他人がいる、という考えで人と接することです。お前は自己中だな、などと思わないでください。どんなに素晴らしく有名な人物がすぐ前に居ても、それを認識する自分がいなくては存在しないからです。
 いや、いや、とんだところへ話が逸れてしまいました。・・・そうでした。あの女性、そうでした、あの女性は・・・。思い出しました。たしか、ずいぶん前のある春の日、菜の花畑で見かけたことがありました。一人だったのか、誰か家族と一緒だったのか分かりません。背の丈くらいの花の中に埋もれて何かを見ていました。ということは、まだ、子どものころだったのかも知れません。あっ、かわいい女の子だと遠くから見ていました。どこに住んでいるのか。どうしてあそこに佇んでいるのか。などと思っていました。
 ですから、窓から寂しそうにぼんやり外を見ている光景は、私にとってもとってもジンと心の中に響いてきました。・・・もしかして病気に・・・。そうかも知れません。
 私は、勝手にいろいろと不幸な物語を紡いで、できれば、何とかできないものかと思い始めました。

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5 碍子と雷

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 数年前のある時、碍子が私の命を守ってくれました。電線は気ままですから、何でも通します。よい電流でも悪い電流でも。雷は電信柱にとって大きな脅威です。夏の嵐の日、隣の電信柱に落雷しました。電信柱は裂けて燃え出し、電線が青光りを発していました。しかし、私のところの碍子は強い電流を私から遮断してくれました。しかし、かなりの衝撃がありました。私はそのため気絶してしまいました。
 ふと気づくと私に異変が起こっていました。遠くのものがよく見えるし、周りの気配がびんびんと伝わってくるようになりました。予知能力とまではいきませんが、少し先の気配も感じるようになりました。そこで、例の不思議な少女のことに話が戻りますが、私は菜の花畑に埋もれるようにして立っていたその姿を認めたとき、何故かしら胸騒ぎがしました。その感情は少し大人になって改めて見たときに繋がってしまいました。不幸な物語、とか言葉としては浮かんできましたが、私の中ではもう確かな思いとして傾斜していくのをどうすることも出来ませんでした。
 
 「風よ、鳥よ、電線よ、私に知る限りを教えておくれ」

 私はそう呟きました。すると、また、あの日のように空が掻き曇り、風が吹き始めました。そして、稲光もときどきキラッと突き刺さるように鋭い舌を伸ばし始めました。

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6 墓 参

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著作者:Jun Takeuchi


おやっ。私は嵐の翌朝、母親と連れ立って玄関から出てきたあの女性を見つけました。外に出られるようになったのか。よかった。私は、二人の話をじっと聞いていました。


 「お父さんのお墓参りだなんて、・・・歩いて大丈夫なの」

 「大丈夫。お墓までくらいなら」

 「まだ無理だと思うけど・・・」
 
 「ついて来ないで。一人で行くから」

 「ほんとにまだ無理だよ。よした方がいいよ」

 「ゆうべ急に力が出てきた感じ。だから、大丈夫。ついて来ないで」

 「何だか別人になったみたい。・・・じゃ、お花とお線香・・・」

 「ありがとう」


 私は息を殺して二人の会話に聞き入っていました。娘は覚束ない足取りで裏山の入り口の坂道を登りはじめました。私の高さから姿が見えたのはほんの二三分でした。娘は曲がり角で母親を振り返って、ぶっと山の陰に消えてしまいました。母親が家の前でじっと行方を見守っていました。
 父親はいないのか。それから、あの娘は長らく家で病いと闘っていた。何の病気なのか。他にこの家には家族はいないのか。・・・私はその美しい娘の姿を日差しの中で見つめながらあれこれと想像していました。

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7 降下した鳥

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 娘が山陰に消えると、それを待っていたかのように上空に鳥が姿を現し、急降下してきました。鳥は山陰を目指していました。

 「お父さんだ !」

 私はすぐに気づきました。何故かというと、クウ、クウ、というくぐもった愛くるしい声を発していたからです。鳥に転生していた父親が娘に会いに行ったに違いないと私は感じました。
そうです、確かにそう感じたのです。再会の場面を見たい。続いてそういう思いになりました。父親は霊的な変身をして娘に前世の姿を現す・・・いや、ただ、病んでいる娘の姿を見て、勇気を与えたいのかも知れません。
 私は、ほの温かいものを感じながら風に吹かれていました。

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8 墓地での出来事

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著作者 gusdiaz


 鳥が降りてきてから数分後、今度は山陰から二羽の鳥が飛び上がりました。私は、おやっと思いつつ飛んでいく方向を見つめていました。二羽の鳥は瞬く間に反対側の山陰に消えていきました。どうしたことだ。私は少し不安になりました。・・・もしかして。もしかして父親の鳥が娘を連れ去ったのかも知れない。娘を鳥に変えて、有無を言わせず・・・、というかその場のなりゆきというか、ともかく何かのきっかけで二人は意気投合したのかもしれない。父親の思いが娘に伝わり、そこで大変な出来事が起こったに違いない。
 私は、母親の姿を見ました。母親は娘がなかなか帰って来ないので、山に向かって駆け出しました。悲壮な顔つきでした。

 「さやか !! さやか !!」

 えっ、さやか。さやか、さやか。・・・私は何度も頭の中で反芻しました。母親は山陰に隠れても叫びつづけていました。私は念力を集中して、山陰を透視する準備をしました。体中が熱くなってきました。すると、手前の山が消えて、山の裏側が見えるようになりました。滝が見えました。周囲は美しく紅葉していました。
 母親は、滝つぼの前に佇んで、途方に暮れている様子でした。よく観ると、滝つぼの近くに小さなお堂があって、その中に墓らしきものが見えました。恐らく先祖代々のお墓が並んでいるに違いありません。私は、この母親が哀れに思えました。

 「なんとかできないものか」

 私は、しばらく思案していました。しかし、いい考えは浮かんできませんでした。

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9 死は生

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   著作者 Victoria Nevland

 その後、私は呼び続けました。鳥よ、鳥よ。鳥よ、あの日の鳥よ。教えておくれ。あの娘をどうして鳥にしてしまったのか。鳥よ、鳥よ、どうか、どうか、教えておくれ。
 私の声に応えて飛んできたのは、呼び続けてから数日後でした。翼の音が次第に近づいてきて、名も知らぬ大きな鳥が姿を現しました。鳥は電線に止まりました。

 
 「貴方はあの日の鳥・・・」

 「そうです。貴方はどうして私を・・・」

 「貴方は、お父さんに違いないと思ったからです」

 「そうです。病で死んだ父です」

 「鳥に転生されたのですね」

 「生きているとき、私は地獄を味わいました。ですから、自由になりたいと思ったからです」

 「そのことを奥さんや娘さんはご存じないかも・・・」

 「そうでしょう。きっとそうだと思います」

 「娘さん、さやかさんでしたね、さやかさんは長らく患っておられた・・・」

 「そうです。外へ出ることもできなかった・・・」

 「難病・・・」

 「そうです。」

 私は、その後その娘はどうなっているか気になりました。

 「で、あの日ですけれど、二羽の鳥が墓の辺りから飛び立つのを見ましたが・・・」

 「よくお気付きになりました。・・・その鳥は娘と私です」

 「えっ、ではさやかさんは鳥に・・・」

 「はい、その通りです。」

 「分からなくなりました。貴方が鳥に変えたのはどうしてですか」

 「・・・私と同じように死んでしまうと思ったからです」

 「えっ。・・・私にはよく分かりかねますが・・・」

 「貴方は電信柱に転生された。それで、も一度転生したいとは思いませんか」

 「思いません。この姿で満足しています」

 「ほほう、満足と仰いましたね」

 「ええ、満足しています。」

 「動けなくでも・・・。飛べなくても・・・」

 「もちろんです」

 鳥は、急に飛び立ち、私の上を旋回し始めました。

 「ははは、貴方はそれでいいのかも知れませんが、さやかはまだ若い、妻も将来を心配しています。ですから・・・」

 「えっ、・・・ですから、どうしたのですか」

 「死なせて、鳥に転生させました」

 「殺した !!」

 「ええ、そうです。・・・殺して生かしたのです」

 「えっ、元の人間にですか。」

 「ええ、生まれ変わった、いや、そう私がしたのです。不治の病から解放させるためのただ一つの手段でした。・・・私は、さやかが外に出る日を待ち続けていました」

 「そうすると、今は、お母さんのところに・・・」

 「その通りです。・・・でも、ですね、電信柱さん、娘は完全な昔の娘ではありません。似てはいます。心は別人の魂かもしれません」

 「・・・妻は、しかし、気づかないでしょう。」

 そう言うと、鳥はまた旋回して、森に帰っていきました。

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10 戦 場

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 おい、おい、電信柱さん、お前さんは何を悩んでいるんだね。えっ、悩んでいる ? そうだよ、あの娘のこと。・・・私は地蔵尊にそう問われて、却ってほっとしました。そうです。父が娘を殺してまで転生させること。そんなことは許せるのかということでした。


 「私は長い時間、ここでいろいろな出来事を見てきた。・・・そうだな、中でも戦のことが一番心に残っている」

 「イクサ ?」

 「そう、戦。何度も何度も見てきた。弓矢、刀の戦から鉄砲の戦。親子、兄弟の戦も見てきた。だから、ここには死者の霊が夥しいほどさ迷っている。転生して動物や植物になったものもいる。人間になったものもいる」

 「空気の気配ですね」

 「旨いことを言うね、貴方は」

 「いや、正直、何かが蠢いている、その気配が」

 「そうだ。その通り。耳を澄ますと、うめき声、すすり泣きの声もする」

 「だから、あの父親の鳥もその中の一つに過ぎない。父は、何も娘の首を絞めて殺したのではない。」

 「霊の転換ですね」

 「そうだ。瞬時に鳥に変える。・・・見事な業だった。父は相当位の高い霊だと思われる。修行を積んだ証だ。何より娘への愛情が深い」

 「医学の限界を見抜いていたという・・・」

 「そうだ。万能ではない。死ぬべきものはいずれ死ぬ」

 「あの娘、私は・・・、私の娘のような・・・、いや、何でもありません」

 「隠さなくてもいい。私は大体が分かっている積もりだ」

 「ああ、御免なさい。・・・あの娘、父は、他の霊を保有している可能性があると言ってましたが・・・」

 「元のままの霊を獲得することは難しい。こんなに夥しい霊に満ち満ちているからな」

 「他の娘の霊も入り込むことがあるということですね」

 「そうだ。ほとんどは元の霊だが、再転生させる隙に、他の霊が入り込む、・・・と言っても微々たるものだと思うが・・・」

 「母親は気づくのでは・・・」

 「それも霊性の高さによる。気づくこともあるし、ないかも知れない」

 「お地蔵様、またこで戦が始まることもあるでしょうか ?」

 「あるかも知れない。どうしても防ぎたい。しかし、私一人では力が足りぬ」

 「六地蔵様であれば・・・」

 「六道輪廻。六道のどこへでも出かけられる」

 「ぜひ、そのお姿に・・・」

 「そうじゃ、そうありたい。共に修行に務めよう」

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11 飛 ぶ

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 あっ、あの日の鳥だ !! ある日、私は悠々と飛びながら私に近づいてきた大鳥を見つけました。お父さん、お父さん。私はそう呼びかけました。おや、私に何の御用で。鳥は電線に止まりました。なぜ呼んだのかと言いますと、さやかのような姿をした鳥が空を飛んでいるのを見つけたからです。

 「さやかに鳥の霊が・・・」

 「なんだそんなことですか。さやかは気ままに空を飛べます。霊とかそういうものではなく、思いの通りにすることができるようになりました。それだけのことです」

 鳥はそう言って飛び去りました。そのやり取りを観ていた地蔵さんが私に言いました。

 「如意。如意だよ。電信柱さん」

 「思いの通り、ということですか」

 「そうだ。何でもできるようにさやかはなった。ただ、母親はそれに気づいていない」

 「それから・・・」

 「えっ、それから、なんでしょう」

 「さやかにお前の娘の霊が乗り移ったかも知れない」

 「ど、どういうことですか」

 「女優修行の最中、病で死んだお前の娘が、自由に空という舞台を飛び回っているかも知れない」

 「娘がさやかに乗り移った・・・」

 「ははっ、同事ということじゃ。自他が同一化した。・・・さやかの潜在的な憧れとお前の娘のかつての憧れが同一化したということじゃ」

 「さやかは死んだ花りん」

 「ははっ、そうだった。花りんと言った。私はよく覚えている」


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12 救 済

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 さやかと花りん。その霊が浮遊する夜が続きました。私はそのしなやかな舞を楽しみにしていました。これが電信柱の醍醐味だと喜んでいたのでした。
 ところが、ある夜、その霊に突如雷の閃光が襲い掛かったのです。瞬時の出来事でした。



 ところが辺りが昼のように明るくなって、次の瞬間、輝く大鳥が現れました。雷の閃光はその翼に反射して、空の彼方に飛び散りました。大鳥の両翼に抱かれ、娘の霊は無事にまた森に帰っていきました。




 「おい、おい、電信柱さん」

 私を呼ぶ声の方を見ると、なんと六地蔵が並んでいました。

 「あの地蔵さん ?」

 「そうだよ」

 「えっ、な、なんという・・・ !!」

 「ははっ、驚いたね。あの大鳥は摩訶不思議な力を持っている。雷のエネルギーを私にくれたよ。お陰で念願の六地像に生まれ変わることが出来た」

 「私にとって眩しすぎます」

 「いや、いや、じきに慣れる。・・・ははっ、これで、六道に通じる力を持つことが叶った」

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13 焼け跡から

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 おおっ !! 地蔵さま、いや、六地像さま、あの、あの女は何者ですか !!
 私は、すらりとした美しい女が夜明けの野原を山に向かって歩いてゆくの姿を見つけるや、そう叫びました。叫びながら全身が震えていました。

 「ありがたい。ありがたい」

 「ありがたい ?」

 「そうじゃ、あのお方は、あの大鳥のじゃ」

 「あの大鳥 ?」

 「そうじゃ、ここの地に降りられたのじゃ。・・・これから山に帰って行かれる」

 「山に ?」

 「そうじゃ、あの娘の父親の霊も住んでいるあの山じゃ」

 「鳥になった父親も、恐らくあの姫神さまにお仕えしているに違いない」

 「姫神さま ?」

 「そうじゃ、私もこうして姿を変えていただいた。ここの地をお守りになっている女神さまじゃ。私は、これからは、姫神さまのご加護によって布施行を続けていくことになった」

 「では、ここの私のように転生したもの、いや、まだのもの、すべてを守ってくださる・・・」

 「そうじゃ。・・・ただ、もうこれからはよほどのことが起きないかぎり、お姿を見ることはできないだろう」

 「そうですか。分かりました。これからは六地像さまとともにあの女神さまも拝みたいと思います」

 「それがいい。お前の前世の悪業もすべて清められる」

 「悪業・・・ですか。ははっ、数えきれないほどありました」

 「生まれ変わりたいだろう、本心は」

 「一旦電信柱に転生したものが、わがままは言えません。これでいいのかも知れません」

 「はははっ、根性が歪んでいる。本音は透けて見えている」

 「いや、いや、六地像さま、これでいいのです」

 「ははっ、まあ、今はそれでいいとしよう」

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14 妖

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 夕焼け空 ? 見渡す限りの雲が紅蓮の炎をあげて燃え上がっているような・・・。何か不吉なことが起こりそうな・・・。私は辺りを見回しました。すると、地の底から人影が浮かび上がってきました。よくよく見ると、女の後姿。長い髪が雲の色に染まっていました。
 




 「お前は誰だ」

 私は恐る恐る訪ねました。しかし、含み笑いのように声が響きわたるだけで、返事はありません。

 「六地像さん、六地像さん、助けてください !!」

 私は思わず叫びました。しかし、何にも応えてくれません。その代わり、その女の声が私に絡みつくように響いてきました。

 「忘れてはいないはず。・・・お前に殺された冴子です」

 「えっ、冴子。ど、どうしてここへ・・・」

 「言い残していたことがあります」

 「な、なんのことだ !!」

 「私と一緒に家を出た花りんは、病気で死んだのではない。私と同じように殺された。ははっ、私の目の前で・・・」

 「だれが殺した !!」

 「京子、そう、貴方の妻」

 「えっ、京子が・・・、そんな・・・」

 「嘘だ、嘘だ !! 京子は病院にいた !!」

 「ははっ、ところが、いつの間にか私の家の中に忍び込んで・・・」

 「やめろ !!」

 「はははっ、子どもが出来ないからと言って、・・・あまりにもひどいことを・・・。ははっ、もしかして、お前が殺させたのでは・・・」

 「なに !! そ、そんなことはない !!」

 「私は、花りんの望みを叶えてやりたいと一心に努力した」

 「努力 ?」

 「そうだ。学費を、生活費を・・・」

 「恩着せがましい。あんなちっぽけなお金は何にもなりゃしない」

 「なに !!」

 「京子は、私が呪い殺した」

 「冴子 !! お前を私は殺してはいない !!」

 私は必死に叫びました。叫べば叫ぶほど、その黒い影はますます大きくなり、消えようとしません。六地像さん !! 六地像さん !! 私は声の限りに叫びました。

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15 昇 華

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 この地球に一人の女性がいたとしよう。過去世において不倫という罪を犯し、子どもをなし、子どもも母親も死んだとしよう・・・。六地像さんは私に語りかけてきました。

 「相手の男と子どもを愛しているその心は純粋で一途。ただ、男の妻に対しては悪。・・・聖と悪の両面を抱えながら能動的に堕ちていく。・・・そういう女がいたとしよう」

 「それは私のことですか」私は悪夢の恐怖をまだ感じながらそう問いかけました。

 「そうかも知れない。いや、私はじっとお前の過去世を見ていたから、まずもってお前のことを語りだした」

 「そうですか。続けてください」

 「それで、死んだその女はどう転生するのか。・・・ははっ、私はお前が幻影にもがいている姿を見て、はたと気づいた」

 「えっ、どういう・・・」

 「転生修行を繰り返せば、聖と悪は二面性を持ったまま昇華する。昇華を続けて奇跡的な転生をする。・・・ははっ、やっと私も分かった」

 「聖は悪を剋する。そして、悪は修行の足らぬ相手の中に深く内在する」

 「相手とは ?」

 「お前じゃ」

 「私 ? ・・・ということは・・・」

 「ははっ、今見た過去の幻影がそれじゃ」

 「ああっ、混乱する」

 「はははっ、お前はまだまだ修行が足りない。相手はもう神、姫神となっているというのに」

 「姫神 ?・・・えっ、というと、冴子が姫神に・・・」

 「そうじゃ。・・・姫神が鳥となってさやかと花りんの霊を助けた。ははっ、私はやっと解せた。・・・聖は悪を剋する」

 「冴子が神に・・・。ては、京子は・・・」

 「それはいずれ分かるときがくる。我昔所造諸悪業 皆由無始貪瞋癡 従身語意之所生 一切我今皆懺悔」

 「・・・」
 
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